Kaonon white Valentine’s Day -- Version 1

 何年かぶりの大雪。祐一はこんなに降るのかって目を丸くしていたけど、いつもはここまでは降らないよ。祐一が7年ぶりに来た去年も、ここまでは降ってなかったもんね。
 こんなに降ると屋根の雪下ろしをしなきゃいけないし、ちゃんと雪かきしないと玄関から出られなくなっちゃう。祐一がいてくれて、お母さんも喜んでたし。雪下ろしをしなきゃいけないときはいつも、近所の人総動員だったもの。お母さんがお菓子を作って、手伝いに来た人に振る舞ったりしてね。
「いってぇぇぇっ」
 思い出してくすっと笑ったとき、屋根の上から大きな声がした。わたしは、ベランダによっかかっていた体を上に向ける。
「ゆーいちー? だいじょーぶぅー?」
「な、なんとか……」
 ちょっと頼りない声が聞こえてくる。まだあまり雪になれていない祐一には、ちょっと辛いかな?
「がんばってねっ 終わったら、ご褒美、まってるから」
「おうっ」
 ガッツポーズをしたような声が聞こえて。ざしゅっ ざしゅっ っと雪が庭に投げ出される。……無理しないといいけど。
 
 ざしゅっ ざしゅっ
 さしゅっ どささーっ

 リズミカルに雪が屋根の上から落ちてくる。

 ざしゅっ ざしゅっ
 ざしゅっ どささーっ

 去年、7年ぶりにうちに来たときはあんなに寒そうにしてたのに。雪になれるのも、早いものなんだね。思えばいろんな事があった去年。
 家族が急に3人も増えたり。7年ぶりにあった男の子が、いつのまにか立派な男の子になってたりして。
 去年増えた家族。あゆと真琴の二人はキッチンでお母さんに教わりながら、一生懸命にチョコレートケーキを作っているはず。私は? ――ねぇ?

 どさっ どさっ
 ……ざっ どどどどっ……

 あれ?
 今までの音とは違った音がして、私の目の前の庭に大きな雪の山ができた。真ん中あたりから、足みたいのが生えてる。
 私はスリッパを脱ぎ捨てると急いで部屋をまわって――階段をかけ降り、庭に飛び出した。
 脱げそうになるスリッパを押さえながら庭にまわると、ちょうど、祐一が雪の山から体を引き起こした所だった。
「ったたた……」
「祐一。大丈夫だった?」
「……なんとか……」
 さっきと同じ台詞だけど、より情けない声。
「もぉ―― 雪まみれになっちゃってるよ」
 地面に座り込んでしまっている祐一の頭や、体についている雪の塊をぱたぱたとはたき落としながら、顔を除き込む。
 祐一の目は私でなないところを見ていた。っもう――
 視線を追うと、屋根の上。祐一と一緒に滑り落ちた雪の分だけ、屋根からぽっかりと雪がなくなっている。
「この方法で雪おろしをすれば、早く終わるかな?」
「そんなことしてたら、雪をおろす前に祐一の体がどうにかなっちゃうよ……」
 強がりをいう祐一の言葉に、私は口をとがらせた。
 「ははっ」
 強がりをするように笑い、2,3回、確かめるように体をたたくと、祐一は置きあがろうとする。
「わ。まって」
 祐一の顔をのぞきこんで声をかけると、不思議そうな顔をする。
「痛みどめのおまじない――」
 不思議そうな表情の顔に近づき――そのまま、唇と唇を合わせる。しばらくの時間のあと唇を離すと、祐一の瞳は戸惑いに満ちていた。
「――それから、バレンタインの、プレゼント」
 用意していた、最高の笑みを祐一に向ける。伝わってるかな――私の気持ち。
 不思議そうにしていた祐一は立ちあがると、ぽんっぽんっと私の頭をたたいた。くすぐったい。
「そっか。今日は2月14日だっけ」
「もう―― 忘れてたんだ」
「俺がおねだりしても寂しいだけだろが」
「だって祐一…… 何だか周りに女の子多いし……」
「――嫉妬?」
「ひどい」
 そういって膨れた私の目を見つめると、祐一の顔が近づいてくる。私は目を閉じた。
「続きは――」
 唇が触れた一拍の後。
「雪を全部おろしてからな」
 そんなことを言ってくる。
「うんっ」
 私が答えると、祐一は体を伸ばしてから、屋根に登っていった。

 ざしゅっ ざしゅっ
 ざしゅっ どささーっ

 変わらないリズムの音を聞きながら、私はベランダでもの思いにふける。
 いいよね? きっと今日、あゆちゃん、真琴、しおりちゃん。それから舞さんに、佐由理さん? たくさん人がやってきてちょっとしたパーティーになるだろうけど。私の……祐一でいてくれるよね? ちょっと八方美人なところはあるにしても。
 変わらないリズムの音を聞きながら。大切な人と一緒のバレンタインデー。
 ねがわくば来年も、この、せっかく手に入れた幸せが失われませんように。それはちょっと、都合の良いお願いかも知れないけれど。私の本心からの願い。 



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