最後は…どうか、幸せな記憶を。

AIR

 Kanonに引き続き、「Key」としての第2作。「AIR」です。

 ちなみにこのページはクリアするまでネタを見たくない人にはお勧めできません。……って、ここまで読んでいればもう無駄でしょうけれども。
 さて。
 とりあえずDream編各キャラ。

  霧島佳乃

 「魔法が使えたらって、思ったことないかなぁ?」

 1周目終えた時点では、1番のお気に入りキャラ、かな。姉の聖とセットで、ですが。何が人にとっての「幸せ」かは分からないけれども。唯一、一番わかりやすい「ハッピーエンド」を用意されているキャラクターですね。
 右手のバンダナが、願いを叶えてくれると信じている少女。妹を守るために、妹の冒された病を癒すために、すべてを捧げている姉。
 佳乃が負ったのは、翼人に掛けられた呪い。羽にさわったことで、翼人の記憶の一部を受けついでしまったのでしょうか?
 それを解放する事で力を使い果たす往人。法術の力を失ったということは。佳乃の呪いを説いたということは。――空の上の少女は救われたのでしょうか。力が無くなるということは、「必要が無くなった」と見ることも出来ますから。さて――?

遠野美凪
 「飛べない翼に、意味はあるんでしょうか」

 ぼけぼけ少女、美凪。確かにお気に入りキャラです。周囲を含めたすべてを合わせると、佳乃には譲る……のかな? でもそれは、「3人そろった」状態が後にも続かないから――ということに過ぎなくて。エンディング的には美凪トゥルーエンドが、Dream編の中では一番「理解できた」ものでした。
 少女は過去を取り戻し、青年は旅に戻る。再会を期して。……もう会えないであろうという気持ちを心の奥に封じて。

 少女と青年の出会い。家族というもの。それを描くには、これがすっきりきてるかな。と。

 でも、わたしのお気に入り美凪エンディングは、バッドエンドの方なのです。
 一歩踏み出すことが出来なくて。どんなに必要なことだと分かっていても。自分で作ってしまった檻の中から飛び立つことが出来なくて。みちるの、最後の願いを叶えてやることも出来なくて。雨の降りしきる中。往人にきつく責められる美凪。
 私は、こういった無力な。愚かしい姿を晒すシチュエーションが好きだったりしますから。おそらくは、自分の鏡として、なのでしょうけど。
 そして最後は、母親のもとを離れて、青年についていく。もう一歩踏み出せる自分を信じて。青年が追いかける少女のもとに、みちるがいることを信じて。自分の誤りを正すために。
 なんだか、そういうのが好きです。

神尾観鈴
 「ただ…もうひとりのわたしが、そこにいる。そんな気がして」

 メインヒロイン。はじめは、空に憧れを持つ少女。明るくて、楽しい少女。
 それが、往人と親しくなり始めた頃に、イメージを変えてゆく。友達を作ることが出来ないことに、諦めの感情を持っている少女。自分の寂しさを隠しながら、努めて明るくする少女。
 観鈴の心の中にある寂しさ。でも、自分一人のために、人に迷惑をかけちゃいけない。わたしは、つよい子なんだから。そう言い聞かせて。唯一の近しい人、義理の母ともすれ違いを繰り返しながら。
 んぅー。健気です。わたしがお気に入りキャラにするためのほぼすべての状況、条件を備えていますです。
 だから、素直に考えれば、観鈴がなんばーわんキャラなんですけど。でも、何かがそれを許さないのです…。エンディングに不満があるわけでもないのに…。
 不思議なものですねぇ……
 往人と近づきすぎたことで、痛みを覚え…記憶を失い…そして、次第に弱っていく観鈴。最後に往人は観鈴の元を離れる決意をしたけれども。それが誤りであることに気がついて。観鈴の元にもどり、人形の中に、過去ずっと空の上の少女を捜していたであろう、人形の中の意識に同化していく。
 そして、目を覚ます観鈴。彼女の前には、たった一つの人形。
 寂しいけれども。それでも希望の日々が始まる……そんな終わり方を感じました。この時点では(笑)

Summer編
 翼人の記憶。観鈴が冒された病の、佳乃が冒された呪いの、そして、みちるが借り受けた希望の一欠の。すべての源が証されるストーリーですね。
 選択肢がないので、音楽と文章と、雰囲気を楽しむのみ、です。
 十分に、伝わってくるものはありましたけど。
 母親に会いたい――願う、囚われの少女。困難な旅をする3人。全く他人だった3人の中に芽生えていく、不思議な感情。何か暖かいもの。
 困難の末にたどり着いたのは、絶望。すべての翼人の記憶と、希望と、困難と…すべてを受け継いで、なお呪いをその一身に受け手、空に昇った神奈。神奈の苦しみを知る、柳也と裏葉。
 しかしまぁ、神奈を失った後の柳也と裏葉の生き方がもう。好みですの。彼らの願いが、かなうことを祈りつつ……彼らの願いが、彼らの子孫を苦しめていく、その因果が。心に残ります。
AIR編
 カラス。黒い羽根。
 それが意味するものにしばらく気がつきませんでしたが。背中に羽を手に入れた往人、なんですね。
 晴子さんの心中も、ここにきてようやく暴露されます。……というか、ある意味、このAIR編の主人公は晴子さんですねぇ。
 胸に秘めた、届かない想い。届けられなかった想い。届けたくても、何かが引っかかっていて。それが解き放たれたのは、すでに日常が崩れ去った後で……想いが届いたときには、もうそれは崩れ去ってしまっていて……それでも、観鈴は最後に幸せだったと信じられるから、あの子は強い子だったから。わたしも、強くあろう……
 そんな、想い。
 かな。晴子さんから感じたのは。
 助けたいのだけど。どんなにがんばっても。あげられるのは、ほんの少しのものでしかなくて。無情にも時は過ぎてゆく…
 比較するのはあまり良くないけど、Kanonの真琴シナリオのような、無力感。
 一度見てきたものを、別の側面からみるってのも、良いです。無駄な、必要ない部分もとばされていて、いい感じです。
 二人だけの、夏祭り。
 最後のシーン。

 「…もうゴール、していいよね」
 「わたしのゴール」
 「ずっと目指してきたゴール」
 「わたし、がんばったから、もういいよね」
 「休んでも…いいよね」
 「でもわたしは、ぜんぶやり終えることできたから…」
 「だからゴールするね…」
 「ゴール…するね」

 ずっと探していた場所、それは、神奈が求めていた、母の胸のなか…なのでしょうか。
 観鈴が最後に幸せであったこと、それが、救いですね。

 しかし、バッドエンドで観鈴が往人に向かって言う
「よーい、どん」
 が、ここにきて、非常に切ないものを感じさせます。「ゴール」に向かっての「スタート」。うまくスタートとゴールを対比させていますよね…

 そんなわけで。
 かなりあれな総評(w でしたが。
 お気に入り作品度は、かなり高いです。今のところ、トップというわけではありませんけれども。「家族」というテーマがはっきりしていましたし、それぞれの「幸せ」は描き分かれていましたし。
 ただ、メインであるところのAIR編で、往人の影が薄くなってしまったってのが、ちょっと。晴子さんの描きかたはすばらしいのですが、もう少し往人の思い出を絡めて欲しかったかも。観鈴が、往人の人形を大切にしていて欲しかったりもしたですし。
 しかし、これほど様々な受け取り方が出来る作品ですから、様々な二時創作が描かれるでしょう(これがこの世界の良いところだと思ってますし)。
 私は、期待を裏切らないだけのすばらしい作品だと思いましたが、皆さんはいかがですか?
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